裁判・事件等
ホーム > 裁判・事件等 > 足立区団体規制条例コーナー > 訴状 (4/4)
image
裁判・事件等
団体規制法/観察処分

足立区団体規制条例

長官銃撃国賠訴訟

裁判日程

訴状 (4/4)

line

6 適正手続違反

 

本条例は、観察処分を受けている団体であるというだけで、足立区長に対する報告義務を課しており、これについては、何らの要件も付していない。周辺住民に対する説明会開催義務も同様である。
「行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではない」(最高裁大法廷平成4年7月1日判決)とする判例があるが、この判決は、適正な事前手続を置くことを原則にして、例外的には事前手続を欠くことが容認される場合もあるとするものである。
本条例の場合には、制限を受ける権利は憲法上の精神的自由に位置づけられる結社の自由、信教の自由、さらに、プライバシー権に関わるものであり、一方、保護しようとする利益は、不安や脅威あるいは不快感情にすぎないのであり、前記最高裁のいう「行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量」しても、何らの手続もなしに、義務を課すことができる場合とは言い難い。
一定の実体的な要件があり、かつ、事前の聴聞等の適正な手続を踏んだ上で、一定の義務(処分)が課されなければならないのである。
また、本条例は、区長が協議のあっせんを命ずる場合、脅威、不安を除去する措置を命ずる場合、住所地からの立ち退きを命ずる場合には、区長による聴聞の手続をとることを規定している(本条例11条)。
しかし、結社や信教の自由、プラ−バシー権、居住・移転の自由に著しい制約を加えるという重大な権利侵害を伴うものである以上、処分前における手続の対審化が図られ、区長以外の機関による対審的手続による審査が準備されなければならない。
本条例は、このように、適正手続(憲法31条)に違反するものである。

7 建物への立入りを許容する規定の憲法違反性

 

(1) 本条例に調査の内容
本条例8条は、反社会的団体に対する行政調査について定めている。すなわち、同条第1項の規定によれば、足立区長は、反社会的団体の活動内容が区民の安全及び周辺住民の日常生活の平穏に対して脅威又は不安を与えるおそれのあるとき、又は反社会的団体の構成員が騒音、異臭等を発生させる等、周辺住民の日常生活の安全及び平穏に対して脅威又は不安を与える行為をしたときは、当該団体に事実の確認を求めるとともに、事実を確認するために建物に立ち入る等必要な調査をすることができると定めている。また、同条第2項は、区長は区内に住所を有する反社会的団体の構成員について、住民基本台帳法の規定に基づき調査をするものとすると定めており、さらに、同条第3項によれば、区長は、上記の調査に当たり、区職員に関係人に対し質問をさせ、又は文書の提示を求めることができるとされている。
そして、これらの調査に際し、「調査に協力せず」「質問に対し、回答をせず」「虚偽の陳述をし」「文書の提示を拒み、妨げ、忌避し、若しくは虚偽の文書を提示」したときは、5万円以下の過料の制裁を受けることとなる(本条例10条)。
(2) 本条例の強制調査としての性質
このように、本条例による調査を拒否した場合には、過料5万円の制裁が設けられている。しかし、金5万円は、行政罰として定められる過料5万円以下の上限まで定められており(地方自治法15条2項)、反社会的団体のみならず、その行為をした構成員に対しても課せられることとなるから(本条例10条)、構成員全員が上記調査に協力しないなどと判断された場合には、構成員に科せられる過料の額は構成員の人数によっては膨大な額にのぼることがあり得る。
それゆえ、間接強制といえどもその程度は大きく、調査の際には、これに協力し、質問には回答し、提示を求められた文書は提示をしなくてはならないという強い強制が働くのであり、本条例に基づく調査は、間接的に強制される構造になっている。 また、本条例に定める、事実確認するための「建物に立ち入る等」の行為は、足立区長が、反社会的団体の活動内容が区民の安全及び周辺住民の日常生活の平穏に対して脅威又は不安を与えるおそれのあるとき、又は反社会的団体の構成員が騒音、異臭等を発生させる等、周辺住民の日常生活の安全及び平穏に対して脅威又は不安を与える行為をしたと判断すれば、いつでも、どんな時間帯でも、どの建物に対してもできることになっている。団体規制法が、立入検査を行うことができる場所について「団体が所有し又は管理する土地又は建物」(団体規制法7条)と規定しているのと比較しても、その範囲は広く、限定がない。
本条例が規制の対象とする団体は、宗教団体であるから、立入りの対象となる建物には、在家信者も出家信者もいることが想定され、本条例による立入りにより宗教上の行動や信仰生活そのものが侵害される。個人の居宅や居室であれば、個人としてプライバシーや住居の平穏が害されることになる。
そして、その立入りに当たっては、なんらの事前通知、調査理由の告知等の手続きがなく、立入りを受ける側は、いかなる事実についての調査を受けているか不明である。そして、調査の目的は、「脅威又は不安を与える行為」の確認であるから、調査対象物及び対象場所にほぼ制限がない。
本条例は、条例はもとよりその下位の法規によっても、建物立入りにあたって、足立区長(その命による職務に従事する職員)による対象団体の構成員のプライバシー権や住居の平穏に対する侵害を防止しようとするための行動規範を一切設けていない。
また、立入りにより構成員のプライバシー、住居の平穏及び通信の秘密が侵害されたとしても、本条例には、その侵害に対して救済を求める規定も存在しない。
すなわち、調査を受ける者は、突然調査員の来訪を受け、その理由目的も不明のまま、寝室、浴室等のプライベートスペースや下着、生理用品等プライベートな物まで調査を受けることとなるのである。なお、観察処分による立入検査の際には、これら生理用品等についても調査がなされており、決して杞憂とはいえない(甲9)。
このように本条例の定める調査権への強制は、間接強制であるものの、けして軽視できるものではなくその程度は大きい。
本条例は、このような構造となっており、強制調査としての性格を帯びている。
(3) 目的、必要性、手段の相当性の観点からみた憲法違反性
このように本条例が、建物に対して立ち入ることを含む事実確認(調査)の権限を与えていることは、すでに、指摘したとおり、その目的においても、また、必要性においても、さらに、手段の相当性(必要最小限の原則)の基準からしても、厳格な違憲審査の基準をクリアできないものである。
(4) 憲法35条の令状主義違反
最高裁は、「憲法35条1項の規定は、本来主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制のもとにおかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものではないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは妥当ではない」とし、憲法35条1項の規定が行政手続に適用される余地があることを認めている(最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁)。そして、その適用について、「行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政手続における強制の一種である立入りにすべて裁判官の令状を要すると解するのは相当ではなく、当該立ち入りが、公共の福祉の維持という行政目的を達成するため欠くべからざるものであるかどうか、刑事責任訴追のための資料収集に直接結びつくものであるかどうか、また、強制の程度、態様が直接的なものであるかどうかなどを総合判断して、裁判官の令状の要否を決めるべきである」と判示する(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)。
本条例の定める建物への立ち入り等を含めた調査は、憲法上保障された信教の自由、結社の自由、プライバシー権、住居の平穏、通信の秘密が著しく侵害されることになる一方で、立入り調査への強制は、間接的なものであるが、その程度は強度である。
また、行政調査に関する法律にしばしば規定され、団体規制法7条4項にも規定されている「立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈されてはならない」という犯罪捜査との関係での権限の濫用を防止する規定が、本条例には存在しない。厳格な規定を欠いた本条例が刑事責任追及の手段として利用される危険もある。
これらのことを総合考慮すると、本条例の立入りを含めた調査権の行使に当たっては、裁判官の発する令状が必要である。これを定めていない本条例は憲法35条違反するものである。

第5 結論

 

以上、本条例及び本件処分は憲法に違反するものであり、また、そうでなくとも本件処分は報告しないことにつき正当な理由があるにもかかわらずなされた違法な処分であるから、いずれにしても取消されるべきである。
よって、請求の趣旨記載の判決を求める。

 

 

コーナー目次に戻るこの記事の目次|前の記事

このページの上部へ