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団体規制法/観察処分

足立区団体規制条例

長官銃撃国賠訴訟

裁判日程

抗議書

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平成22年10月7日

公安調査庁長官
北田幹直 殿

団    体    名  Aleph
主たる事務所の所在地 埼玉県越谷市■■●-●-●

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抗  議  書

 本年9月30日、千葉県千葉市所在の当団体会員住居に対して行なわれた立入検査において、本件検査における現場責任者である岡野英朗氏が、当団体法務担当Aによる、本件検査の目的について尋ねる質問に対して、「定期的なもの」と回答する一幕があったところ、当該発言は団体規制法の趣旨から逸脱した問題発言であると思料される。本書面は、この点につき、貴庁に対して抗議を行なうものである。

1.公安調査官の権限行使に対する団体規制法上の制約

団体規制法によれば、公安調査官には、観察処分と再発防止処分の2つの規制処分を公安調査庁長官が請求するための調査権(同法29条)と、観察処分の適用を受けた団体の活動状況を明らかにするための調査権(同法7条1項)が付与されているが、同法は、2条が「この法律は,国民の基本的人権に重大な関係を有するものであるから,公共の安全の確保のために必要な最小限度においてのみ適用すべきであって,いやしくもこれを拡張して解釈するようなことがあってはならない。」と定め、3条1項が「この法律による規制及び規制のための調査は,第一条に規定する目的を達成するために必要な最小限度においてのみ行うべきであって,いやしくも権限を逸脱して,思想,信教,集会,結社,表現及び学問の自由並びに勤労者の団結し,及び団体行動をする権利その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を,不当に制限するようなことがあってはならない。」と定め、同条2項が「この法律による規制及び規制のための調査については,いやしくもこれを濫用し,労働組合その他の団体の正当な活動を制限し,又はこれに介入するようなことがあってはならない。」と定め、公安調査官の権限行使を抑制的に行なうよう定めている。これらの規定は、いずれも、国家権力は法律に授権された範囲内で行使し、国民の権利を不当に制限してはならないという、いわば当然のことを規定しているに過ぎないが、このような規定が団体規制法において敢えて設けられたのは、この法律が思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由、勤労者の団結権、団体行動権といった憲法及び国際人権法に規定された基本的人権の中核的権利に対する著しい制約を伴うものであって、公安調査官による調査がこれらの基本的人権に影響する可能性が極めて大きく、その運用によっては、権限が濫用され、国民の自由と権利が不当に制限される虞があることが法制定の当初から危惧されたからに他ならない。しかも、同法42条 は「公安調査官がこの法律に定める職権を濫用して,人に義務のないことを行わせ,又は権利の行使を妨害したときは,三年以下の懲役又は禁錮に処する。」と定め、一般の公務員の職権濫用罪(刑法193条)が定める「2年以下の懲役又は禁錮」よりも刑罰を加重することによって、違反行為に対する抑止的な効果を図っているのである。
  団体規制法が、公安調査官の権限行使を抑制する上記のような規定を敢えて設けた趣旨からすれば、同法における立入検査の要件の解釈に当たっては、同法2条及び3条の趣旨に沿った解釈をしなければならないことは言うまでもない。

2.団体規制法に基づく公安調査官の権限行使の中でも、立入検査権限の行使は、特に抑制的でなければならないこと

団体規制法7条1項は、「公安調査庁長官は,第五条第一項又は第四項の処分を受けている団体の活動状況を明らかにするため,公安調査官に必要な調査をさせることができる。」と定め、その上で、同条2項は、「公安調査庁長官は,第五条第一項又は第四項の処分を受けている団体の活動状況を明らかにするために特に必要があると認められるときは,公安調査官に,同条第一項又は第四項の処分を受けている団体が所有し又は管理する土地又は建物に立ち入らせ,設備,帳簿書類その他必要な物件を検査させることができる。」とし、「特に必要があると認められるとき」の要件を満たすときに初めて立入検査をすることができると、限定的に規定している。
  このように、団体規制法7条2項が、立入検査の要件として、「特に必要があると認められるとき」に限って立入検査ができると明記し、立入検査ができる場合を限定したのは、同法上、観察処分に付された団体に対しては、第一次的には、公安調査官による任意調査や団体からの報告徴取を行なうことが原則であり、立入検査は、あくまでも二次的・補充的な手段として行なうことができるに過ぎず、かつ、立入検査が、直接にプライバシーや住居の平穏を侵害するとともに、思想・信条の自由、集会・結社の自由、信教の自由、学問の自由、表現の自由を侵害する虞が極めて高い調査方法だからである。

3.立入検査権限の行使が特に抑制的でなければならないことは、憲法13条、同35条の法意からも当然に導かれること

憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定め、個人の尊厳、国民の幸福追求権を保障しているが、この中には、私生活上の事柄を他人に侵されないという意味でのプライバシーの権利が含まれている。
  また、憲法35条1項は、「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」と定めている。そして、最高裁大法廷による昭和47年11月22日のいわゆる「最高裁川崎民商事件判決」が判示するように、同条は、直接には刑事事件を念頭に置いた規定であるが、行政手続についても、刑事責任追及を目的とするものではないとの理由のみで、その手続における一切の強制が、同条による保障の埒外にあることにはならないのであって、同判決が、所得税法に基づく検査権の合憲性に関し、刑事目的の手続でないことのほか、強制の態様と程度が低いこと、公益的な必要性があること、目的・手段の均衡が保たれていることを合憲性を基礎付ける理由として挙げていることからすれば、強制の程度が著しく、検査の必要性・目的と手段の均衡が保たれていない場合は、少なくとも適用において違憲の場合があることを示している。
 
  このように、団体規制法が、団体の活動状況を明らかにするための公安調査官による任意調査を規定し、団体に対する定期的な報告義務まで規定しながら、さらに「特に必要があると認められるとき」の立入検査を規定している趣旨からすると、公安調査官が立入検査を行なうことができるのは、公安調査官による任意調査(一般調査)や団体からの報告徴取によって、無差別大量殺人行為に結びつく何らかの危険な兆候が見出された場合に、任意調査や団体からの報告徴取によっては、なお活動状況が明らかにできない、あるいは報告を待っていては活動状況を明らかにする機会を逃してしまうといった事情があるときで、かつ、当該施設に対して立入検査を実施することによって更に活動状況を把握できる個別具体的事情が認められるときに限られると解されるべきである。

4.団体規制法の立法過程でも明言された立入検査の補充性

以上のことを裏付けるように、本法の立法過程においても、以下のようなやりとりがある(第146国会衆議院法務委員会議事録より・1999年11月9日)。

○漆原委員 ちょっと私がお尋ねしていることと答えが違っておるんですが、七条をちょっと見ていただきたいと思うのです。観察処分の実施、七条第一項は、 五条一項または同四項の処分を受けている団体の活動状況を明らかにするために必要な調査をさせることができると。これは一般的な調査権なんでしょうね。第二項でさらに、「団体の活動状況を明らかにするために特に必要があると認められるとき」というふうに、ここに新たに「特に」というのが入って、その場合には立入検査ができるんだ、こうなっているわけですね。
  そこで、この第七条一項の一般的な調査のほかに、さらに特に必要がある場合に立入検査ができるという条文になっているものですから、この特に必要がある場合というのは一体どういうことなんだ、どういうことを想定しているのかということをお聞きしているわけです。

○臼井国務大臣 具体例で申し上げるならば、例えば、ある施設が金属加工の用に供されている旨の報告がなされた。そうした場合に、公安調査官が任意調査や団体からの報告のみによって当該施設や同施設に設置された設備の性能や用途について正確な把握ができない。そうした場合には公安調査官が同施設に立ち入って当該施設の実情を調査する必要があるんじゃないか、そういうふうに考えられるわけでございまして、そうした際という意味であります。

○漆原委員 一般的調査ではわからないけれども、何か危険なもの、あるいは銃器を製造、加工した可能性があるとか、あるいは毒物を何かやっている可能性があるとか、そういう具体的な情報に基づいてその情報を確認するために、そういう前提なんでしょうね。そういう場合に「特に必要がある」というふうになるんでしょうね。そう理解していいでしょうか。

○臼井国務大臣 そのとおりでございます。

 このやりとりからすると、銃器や毒物の製造等、何か危険なことをやっている可能性があるというような具体的な情報を確認するために行なうというのが、立入検査を実施するための具体的条件設定として、当初、想定されていたことが明らかである。

5.岡野氏の発言に表される貴庁の問題姿勢

以上、述べたような法意から鑑みると、立入検査における「特に必要があると認められるとき」という要件は厳格に解釈・運用されなければならないことは明らかであり、ましていわんや定期的に立入検査が行なわれてよい道理は存在しない。本件検査の現場責任者である岡野氏による「定期的なもの」という発言は、貴庁が、団体規制法の趣旨を全く逸脱し、誤った法解釈・運用を行なっていることを端的に示している。

 現に、2000年に観察処分が適用されて以来、立入検査は、月に2〜3回程度の一定頻度で恒常的に行なわれており、対象物件も網羅的であり、その時期にいかなる理由によってその場所が選択されたのか、合理的理由は見出し難いと言えるところ、かかる状況は当初定められた法の趣旨が没却され、立入検査が「定期的」に行なわれている実態を表している。

 かかる放漫な法解釈・運用によって、住居の平穏やプライバシー権等、当団体会員の基本的人権がいたずらに侵害されている状況は、実に許すまじき事態であるところ、当団体としては改めて厳重に抗議するとともに、貴庁におかれては、立法当初の趣旨に立ち返り、厳格な法解釈・運用を行なうよう、強く要請するものである。

以 上

 

 

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