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請 願 書

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2010年 4月21日

国家公安委員会
委員長 中井 洽様

Aleph

請 願 書

 

 日本国憲法16条並びに請願法に基づき、貴委員会に対して、以下のとおり請願を行ないます。

 

  本年3月30日に警察庁長官銃撃事件(1995年3月30日発生)の公訴時効が成立したことを受けて、同日午前、池田克彦警視総監を本部長とする警視庁は、同庁内で青木五郎公安部長による記者会見を開き、「この事件は、オウム真理教の信者グループが教祖の意思の下に、組織的・計画的に敢行したテロであった」と断定する見解を公表しました。
  この記者会見において、青木公安部長は、オウム真理教の麻原彰晃元代表を実名で名指しして事実上の首謀者と見なし、また、教団元信者ら8名についても匿名で示し、各人の行動や会話内容等を記した上で、本事件の「容疑グループ」と表現し、事実上、犯人扱いする文書(「警察庁長官狙撃事件捜査結果概要」。以下、「概要」という)を配付しました。

 

 しかし、本事件については、実行犯はおろか、一人の容疑者すら特定するだけの証拠が得られなかったがゆえに、送致・起訴に至ることなく、上記のとおり公訴時効が成立したものです。
  この記者会見は、適正手続の保障の原則(憲法31条)を無視し、刑事手続に依ることなく、当事者らの防御・反論の機会を一切剥奪した状態で犯人扱いし、警察が裁判所に成り代わって有罪宣告をしたに等しい行為です。これは、「無罪推定」の原則に反することはもとより、法治国家たる我が国の刑事手続を完全に逸脱した、およそ前例のない重大な人権侵害行為であり、当団体並びに関係者らの名誉を著しく毀損する非行といわざるを得ません。
  青木公安部長は、「この事件の重大性、国民の関心の高さ、オウム真理教が、今なお(団体規制法に基づく)観察処分を受けていること」などに鑑みたとして、記者会見で上記見解等を公表することに「公益性」があると判断したとしています。
  しかし、そもそも刑事訴訟法上の何の根拠もなく、本事件の捜査と直接関係のない「団体規制法」を持ち出して、当団体を本事件の当事者として一方的に引きずり出すことは、「公益性」以前の話です。これは、捜査機関としての役割を踏み越えて、自己正当化のために刑事訴訟法上の権限を濫用した行為といわざるを得ません。
  当団体としては、むしろ、事件発生直後より、オウム真理教関係者への疑惑を晴らすため、延べ数百名にも及ぶ事情聴取をはじめとして、できる限りの捜査協力を尽くしてきたのです。

 

 また、記者会見で文書配付された「概要」は、そのどこを見ても、麻原元代表及び8人の元信者らが、本事件を「組織的・計画的に敢行した」ことを明確に裏付ける証拠や証言は皆無です。しかも、本事件の実行行為と凶器の入手経路については全く言及がなく、「なお、けん銃、弾の入手ルートについて捜査を実施したが、解明には至らなかった」というひと言で片付けてしまっています。その一方で、「概要」が依拠する事件の構図に合致しない証拠は、はじめからすべて排除されているのです。
  さらに、「概要」の中で、DNA鑑定を過大に評価している点も極めて問題です。「事件当時Eと連絡があり、又は、その影響下にあったと認められる者」1名と、現場遺留品(10ウォン硬貨)の表面付着物のミトコンドリアDNAが、鑑定の結果、一致したことが証拠の一つであると「概要」には記されています。しかし、ミトコンドリアDNA鑑定は、もともと個人識別の精度は極めて低い上、鑑定のために採取されたミトコンドリアDNAの資料数がそもそも明らかにされていないため、これだけでは、いかなる評価も不可能です。さらに不可解なことに、現場遺留品の表面付着物とミトコンドリアDNAが一致したとされている、「事件当時Eと連絡があり、又は、その影響下にあったと認められる者」1名は、そもそも「容疑グループ」8名の中にすら、含まれていないのです。
  したがって、これをもって「捜査結果」とするのはあまりに不公正というほかない上、そもそも、起訴に至らなかった犯罪事実を公表することは、裁判に至るまで犯罪に関わる当事者のプライバシーを公にしないという刑事訴訟法の原則を逸脱するものです。

 

 そもそも、本事件については、対象を「オウム真理教」に絞り込んだ初動捜査の失敗が、井上幸彦元警視総監をはじめとする当時の捜査責任者らによっても指摘されています。
  しかし、青木公安部長が行なった記者会見は、当初の見立てから一歩も抜け出ていないばかりか、さらに確たる証拠もなくこれを断定的に結論づけたものです。これは、時効を迎えるに至ってもなお、本事件の捜査の過ちが警察内部で何ら教訓化されることなく、逆に正当化されていることを物語るものです。
DNA鑑定を過大評価した予断・見込み捜査が冤罪をつくり出した足利事件について、警察庁と最高検察庁によって反省を込めた検証結果が報告された矢先に、これと全く同様の過ちが繰り返されていることは、警察行政に対する国民の期待を真っ向から裏切る行為といわざるを得ません。

 

 また、警視庁は、記者会見での「概要」の配付にとどまらず、本年3月31日より同庁のウェブサイト上にこれをそのまま掲示し、1カ月にわたって一般にも公開するとしています。これは、人権侵害の一層の拡大をもたらすものであり、名誉毀損性が極めて高いといわざるを得ません。

 

 そこで当団体では、警視庁に対して、「公益性」を標榜した不公正な自己正当化に強く抗議するとともに、ウェブサイト上の当該記事を即刻削除し、取り返しのつかない人権侵害等をもたらす見解の公表を直ちに取りやめるよう、内容証明郵便にて要請を行ないました(2010年3月31日付警視総監宛「抗議並びに要請書」【別紙1】)。
  その後同庁より、同庁公安部公安第一課長名義で回答がありましたが(2010年4月5日付当団体宛「回答書」【別紙2】)、そこには「削除要請には応じられません。」とあるのみでした。
  これを受けて当団体では、本年4月9日、警視庁を管理する東京都公安委員会に対して、池田警視総監並びに青木公安部長による職務執行上の非違行為について、苦情の申し出を行ないましたが(2010年4月9日付東京都公安委員会宛「申出書」【別紙3】)、いまだ何の是正措置も取られていません。
  その結果、当団体並びに首謀者扱いされた麻原元代表及び「容疑グループ」とされた匿名の元信者ら8名は、まさに晒し者扱いされると同時に、いたずらに国民の不安を煽られているのです。しかも、匿名の元信者ら8名のうち、2004年の本事件の強制捜査時に逮捕された容疑者4名及び実名報道された他の2名については、事実上、匿名性は失われています。

 

 以上のとおり、本事件の時効成立に際して警視庁が取った一連の措置、すなわち、

 

@公訴提起に至ることなく時効が成立したにも関わらず、首謀者並びに「容疑グループ」を捜査機関である警視庁が特定し、本事件を当団体の「計画的・組織的テロ」と断定する見解を、本年3月30日、同庁公安部長の記者会見において口頭並びに文書(「警察庁長官狙撃事件捜査結果概要について」)で公表したこと
A上記文書を本年3月31日より同庁のウェブサイト上に掲示し、30日間にわたって広く一般にも公開するとしていること
B当団体が、本年3月31日、同庁のウェブサイト上に掲示された上記文書の削除を要請したことに対して、同庁公安一課長名義でこれを拒絶する回答書を本年4月5日付で当団体に送付したこと

 

は、警察の任務が国民から負託されたものであることを没却し、その権限を不公正に濫用した背信的行為であり、当事者らの名誉を毀損したことはもとより、著しく公共の利益を損なった重大な規律違反といわざるを得ません。
  これらの問題点については、すでに多くの専門家からも指摘されているにもかかわらず、警視庁の見解公表が行なわれた本年3月30日から現在に至るまで、警察機構の内部から、これを問題視し、是正しようという自浄作用は一切見られません。特に、警察を民主的に管理し、指導する責任を負う公安委員会が、自らこの問題に何の対応も示さないというのは、法律で規定され、国民からも期待されているその役割を放棄したに等しいというほかありません。
  その中にあって、警視庁の長たる警視総監の任命権者であり、その懲戒権を有する貴委員会において、本年4月1日の定例会議で、警視庁の見解公表について、「あそこまで踏み込んだ発表をしなくてもいいのではないか」と、委員の一部からこれを疑問視する意見があったことが報じられています。

 

 以上を踏まえて、当団体では、貴委員会に対して、

 

1.この問題に関する議論をより深め、貴委員会としての見解を明らかにすること

2.警視総監の任命権者たる貴委員会の権限として、警視庁警察職員服務規程等に基づき、警視総監による重大な規律違反(上記@〜B)に関する調査を行なうこと

3.当団体が本年4月9日付で東京都公安委員会に対して行なった苦情の申し出について、同公安委員会と緊密な連絡を取り、警視庁において、速やかに是正措置(警視庁ウェブサイト上に掲示されている当該文書の削除及び本事件の時効成立に伴う同庁の見解公表の内容及びその方法が不適切であったことの表明など)が講じられるよう促すこと

 

をしていただけるよう、ここに請願いたします。

以上

 

 

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