2010年4月30日
日本弁護士連合会
人権擁護委員会 御中
申 立 人 A l e p h
相 手 方 警視庁
代表者 警視総監 池田克彦
人 権 救 済 申 立 書
第1 申立の趣旨
後段「第2 申立の理由 2.事実経過」において説明される事件につき、相手方による記者発表並びにホームページ上の掲載を違法な公表と認定した上で、相手方に対して、以下の勧告を行なうことを求める。
@相手方は、かかる違法な公表行為を二度と行なわないこと。
A相手方は、記者発表内容の訂正を行なうなど、申立人の名誉を回復させる措置を講ずること。
B上記@及びAを前提としたうえで、相手方は、第三者機関等を設けて警察庁長官狙撃事件(1995年3月30日発生)の捜査過程を徹底的に検証し、その結果を国民に公表することで、今後の刑事手続の適正化に向けての反省に役立てること。
第2 申立の理由
1.当事者
(1)申立人は、無差別大量殺人を行った団体の規制に関する法律(平成11年法律第147号。以下、単に「団体規制法」と言う)5条に規定される観察処分に付されている団体であり、1996年1月に解散となった宗教法人オウム真理教を宗教的に承継する任意団体である。
(2)相手方は、東京都の警察を管轄する警察本部である。
2.事実経過
(1)1995年3月30日に発生した警察庁長官狙撃事件は、被疑者が特定されないまま、本年3月30日午前0時に公訴時効を迎えた。
(2)これを受け、相手方公安部長・青木五郎は同日午前、記者会見を行なったところ、その中で青木は、同事件はオウム真理教による組織的テロであったと断定する趣旨の発表を行なった(別紙1・冒頭発言)。
(3)さらに、相手方は、かかる発表内容を、同3月31日から30日間にわたって相手方のホームページに掲載すると発表したところ、実際に、同発表内容は、4月30日まで掲載され続けた(別紙2・警察庁長官狙撃事件の捜査結果概要)。
(4)同発表内容は、それだけに留まらず、相手方のホームページから不特定多数のインターネット閲覧者により、他のウェブページにも次々と転載されており、被害は拡大を続けている。
(5)また、このような状況を踏まえて、本年4月27日付で貴連合会会長名による声明が発表されたほか、多くのマスコミ・有識者等が、相手方に対する批判を展開している(別紙3・本件に関する報道資料)。
3.人権侵害の事実
(1)同事件が、被疑者が特定されないまま公訴時効に至ったと言うことは、被疑者を特定するだけの十分な証拠を捜査機関である相手方が収集できなかったということである。にもかかわらず、オウム真理教を同事件の実行主体として断定したこと、そして、オウム真理教を「今なお、法に基づき、無差別大量殺人意向意に及ぶ危険性が認められる団体として観察処分を受けている」として、申立人を事実上名指ししたことは、申立人としては相手方からいわれのない誹謗中傷を受けたに等しく、名誉権を著しく侵害されたということができる。
(2)また、相手方は、オウム真理教が観察処分を受けている団体であることを、公表の理由の一つとしているが、かかる理由は刑事訴訟法の原則を無視していい理由には全くなり得ない。
(3)同事件は、検察が起訴できないと判断したものであり、当然、裁判所による事実認定も行なわれていない。相手方は、一捜査機関に過ぎないし、法律を遵守する義務がある。にもかかわらず、法を無視して、検察や裁判所といった機関を飛び越えた形で、事実認定を下したところに重大な問題がある。
(4)また、観察処分を引き合いに出したことは、団体規制法3条が禁じている同法に基づく規制の濫用に当たる疑いがある。もともと貴連合会は、団体規制法が国会で審議されている当時から、会長声明において、同法の制定に対して憂慮を示してきたが(1999年11月2日会長コメント、同年11月18日会長談話)、同法が人権侵害を肯定する道具として、ものの見事に悪用されている状況が現出しているのであり、かかる事態については、十分注意に留めていただきたいところである。
4.結語
このように申立人が被った人権侵害を救済したうえで、相手方が警察組織として、国民からの真の信頼を回復するために、「第1 申立の趣旨」記載の勧告を相手方に対して行なうことを、貴委員会に求めるものである。
以 上