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長官狙撃・時効後犯人断定事件訴訟・東京地裁判決後の記者会見(2013年1月15日)

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 警視庁が警察庁長官狙撃事件(95年3月30日)の公訴時効成立後に行なった発表(2010年3月30日)に対して、Alephが東京都らを相手取り、名誉毀損による損害賠償等を求めた国家賠償請求訴訟において、東京地方裁判所で判決が言い渡され(2013年1月15日)、東京都に100万円の賠償金の支払いと謝罪文の交付が命じられました。
 この判決を受けて、原告側は司法記者クラブで記者会見を開き、以下の発表を行ないました。会見者は、代理人の内藤隆弁護士、清井礼司弁護士、荒木浩広報部長の3名です。

 

内藤代理人:Alephと東京都ほかとの間の賠償請求について、判決が先ほど出ましたので、ご報告します。

 本日の判決については、原告の設定した争点・主張を、論理・理屈としては、ほぼ100%認めた、原告Alephの完全な勝訴の判決といえます。逆に言えば、被告東京都、警視庁の全面的な敗北であるということを、冒頭お伝えしておきたいと思います。

●裁判の争点
 この裁判は、大きく分けて2点ないし3点の争点がありました。
1つ目は、警視庁が2010年3月30日に発表した、『冒頭発言』と『捜査結果の概要』が、原告のAlephの名誉を棄損したものであるかどうか。
 どういうことかというと、被告東京都は、これらの当初発言について、『Alephを対象としたものではない。オウム真理教の一部の信者グループが警察長官狙撃事件を起こしたものであって、あくまでも一部の信者について犯人であるという見解を表明したものにすぎない。したがって、あえていえば、オウム真理教と特定した覚えもないし、いわんやAlephを特定して名誉を棄損するような言動ではない』という主張をしました。このことから、名誉棄損の対象者が誰なのかということが、一つの争点となりました。これが争点となったのは、警視庁が、いわば逃げを打つ形で、つまり正面から裁判を受けて立つというのではなくて、原告に対して「いや、君たちを相手にしているわけじゃないのだからそんなに怒らなくてもいいじゃないか」と言わんばかりの訴訟対応を取ったことによって、この点が争点化したものであります。
 2つ目の争点は、Alephの名誉に関わる表現がなされたのであれば、それが名誉棄損に当たるかどうかという問題と、当たる場合には損害の回復方法ということに進むわけです。このいずれも、裁判所は原告の主張を認めたということになります。

●誰の名誉が棄損されたのか
 
第1の争点、「誰の名誉が棄損されたのか」ということについてご説明します。
名誉棄損罪で、誰の名誉が棄損されたのかどうかというのは、判例(最高裁判所の裁判の先例)によれば、「一般の読者(閲覧者)の普通の注意と読み方」を基準として判断した場合にどうなるかと。要するに、皆さん方がこの『冒頭発言』と『捜査結果の概要』を読んだときに、これは誰のことを言っているのか、今現在誰を批判しているのか、ということです。そして、裁判所の判断基準からすれば、一般の方々は、本件の記載を読めば、「オウム真理教が本件狙撃事件に関わった」という印象を受けるだろうと。

●名誉毀損に当たるのか
 
そして、「オウム真理教」がこの事件に関わったと読める場合に、それが「Aleph」の名誉を棄損するかどうかについて。
 判決11ページには、オウム真理教とAlephは、「実質的に同一の団体であると一般的に認識されている」と書かれています。これも常識です。報道の皆さん方が記事を書かれるときに、オウム真理教とAlephとはワンセットで論じられている。両者は実質的に同一の団体であるというふうに認識されている。
そうなると、オウム真理教に対するいわれなき批判は、Alephに対するいわれなき批判ということであって、本件はAlephの名誉を棄損したものというふうに一般的には認められる。これは、大前提としてご承知の通りであります。
 まとめますと、警察庁長官狙撃事件につきましては、犯人が特定できないまま公訴時効が成立して、刑事訴訟法上、刑事司法上は犯人はわからないという状態の中で、その犯人としてオウム真理教、Alephというふうに特定される声明が出されており、それがおかしいではないかと。これが第1の争点でした。

●損害の回復方法
 
で、これを原告の主張どおりであるとしてクリアしますと、第2の論点としては、損害の回復方法についてどうなるかということになります。
 ここで裁判所は、極めて厳しくですね、警視庁の今回の見解の表明を批判しております。ここは裁判所の判断ですけど、

 「また、検察官が被疑者を不起訴処分としたにもかかわらず、警察官が当該被疑者を犯人であると断定、公表して、その者に事実上の不利益を及ぼすことは、無罪推定の原則に反するばかりでなく、被告人に防御権が保証された厳格な刑事手続の下、検察官が起訴した公訴事実につき、公正中立な裁判所が判断を下すという我が国の刑事司法制度の基本原則を根底から揺るがすものと言わざるを得ない。(判決13ページ)」

というふうに認定をしております。
 裁判所がここまで言い切るという、非常に厳しい見方をしております。これは裁判所の判断であって、弁護士会の声明ではありません。まあ、裁判所は裁判所で頭に来るのかもしれません。「有罪か無罪かは俺らが決めるんであって、警察ごときに決めてもらう必要はない」というふうなことを言っているのかもしれません。

 このことを前提にした上で、金銭の賠償については100万円の賠償と。これは不服でありますけれども、お金をもらうために訴訟を起こしたわけではございませんので、金よりも理論と、理屈と、いうことで、まあ100万円についてはまあ不満ではありますけれども、金額のご報告にとどめさせていただきます。
 ただし、賠償金額を100万円に留めたというのは、もう一つ、謝罪文を東京都・警視庁が謝罪文をAlephに交付することとワンセットの損害回復としての100万円と、「謝罪文の交付を求めるのだから100万円」というふうにわたしは読みたいと思います。
 この原状回復の方法としての謝罪文の交付については、これも極めて厳しい、あるいは極めて正当なことが判決に書いてあります。
 この警視庁の発表は、警視庁のホームページで1ヶ月間掲載されています。最近問題になっておりますけれども、期間もさることながら、1回アップされると、それは保存されて、それは際限なく伝播されるということがインターネットの本質です。そういうことも踏まえた上で、

 「今後も本件狙撃事件の犯人をオウム真理教であるとする根拠として引用されるおそれがあること、本件公表に対して原告が有効な反論をすることは極めて困難であると考えられること、本件各摘示部分の公表が我が国の刑事司法制度を根底からゆるがす重大な違法性を有する行為であることなどからすれば、金銭賠償のみによって、原告の低下した社会的評価を回復することはできないというべきであり、一定の原状回復措置は認められてしかるべきである。(判決14ページ)」

というところで、謝罪文をAlephに交付しなさいという判決になっております。
 謝罪文は、別紙の1のとおりです。

別紙1

謝罪文

 いわゆる「警察庁長官狙撃事件」について、平成22年3月30日警視庁が公表した「冒頭発言」及び「警察庁長官狙撃事件の捜査結果概要」は、今般東京地方裁判所において、Alephの名誉を毀損する違法な内容であるとの判断が示されました。よって、私はAlephに深謝します。

               平成 年 月 日

               東京都知事 ○ ○ ○ ○

 この謝罪文をAlephに交付、渡しなさいと裁判所は言っております。
これも、東京都・警視庁からすれば、非常にですね、まあ彼らからすればそれはもう、はらわた煮えくり返るような文章だろうと思いますけれども、煮えくり返ってもしょうがないと。それだけのことをやったんだ、というのが裁判所の判断であります。
 原告が求めた謝罪文も、別紙2として参考までに引用されていますが、お間違えのないように。主旨は変わりません。

別紙2

謝罪文

 いわゆる「警察庁長官狙撃事件」について、2010年3月30日私たちが公表した「冒頭発言」及び「警察庁長官狙撃事件の捜査結果概要」は、今般東京地方裁判所において、Alephの名誉を毀損する違法な内容であるとの判断が示されました。よって、私はAlephに深謝するとともに、二度とこのような違法行為を行わないことを固く誓約いたします。

                年 月 日

               東京都知事 ○ ○ ○ ○
警視総監  ○ ○ ○ ○


●総じて
 総じてですね、裁判所は途中、何を考えておるのかよくわからない対応で、こちらも結論について勝訴・敗訴いろいろ予測しがたいところがありました。
 証人尋問も、結局認められませんでした。荒木広報部長を証人として出して、この警視庁の行為によってAlephが被った損害を立証したいと言ったんですけれども、その必要なしということで却下をされていました。
 論点は外れますけれども、この長官狙撃事件については、自分がやったという人が出てきているんです。今、岐阜刑務所に在監中ですけれども、中村泰(ひろし)さんという方がですね、「自分がやったんだ」ということで、手記を書いて、それを取り上げた刊行物なども出ていることは承知かと思います。そういういろんな要素を含んで、裁判が持たれて、概ねの経過は「提訴に至るまでの経緯」という、提訴のときに配ったもののとおりでございます。

 わたしの方からは以上です。

 

清井代理人:代理人の清井と申します。1、2点、補足させていただきます。

●真実相当性が争われない名誉毀損裁判
 この裁判は本来ですね、「本当にあんな事件をオウムがやったのかどうか」という、捜査の中身ですね、法律用語でいう「真実相当性」、真実だと信じることに相当性があるのか、というところの立証を警視庁公安部から引き出して、「やっぱり捜査のほうがまずかったんじゃないか」というところに持っていこうという思惑があったのですが、これは見事に外されてしまいました。
 こちらの立証の出発点は、2010年3月30日の警視庁公安部の発表・資料配布に対する、当日、翌日、翌々日にかけて書かれた、新聞各社一斉の弾劾の社説でした。これが非常に裁判所にとって力強い作用があったという意味で、今回の判決は「各報道の警視庁公安部に対する勝利」というふうに位置付けても、ほぼ間違いないだろうというふうに思います。そういう意味では、わたくしどもは、報道各社に深く感謝するところであります。

●謝罪文の交付
 
それからもう一つ、謝罪文の交付という判決。(名誉毀損訴訟で)損害賠償を取ったというのは、そんなに珍しくないことだけれども、謝罪文を交付せよという珍しい判決が出ました。「警視庁の正門と裏門にでっかく書いて貼り出せ」という原告の要求は認められなかったけれども、謝罪文の交付を認めたということは、先ほど内藤弁護士が引用した、裁判所の怒りというか、本来の司法のあり方から見て警視庁公安部のあり方がいかにふざけていたか、ということの表れとして、理解しています。そういう意味では、珍しく勝ち取った勝利の謝罪文だというふうに理解しています。ここも、社説の影響下に乗った謝罪文の認容だというふうに理解してください。

●総じて
 今、裁判のあり方や捜査のあり方が、2010年3月30日当時の何倍も社会的関心になっています。やはり警視庁公安部という、一つの言ってみれば反市民的組織の秘密裏の捜査のあり方に、それをまず公開し、その上で是正しろという、このような市民的な要求を、まあ猪瀬君(東京都知事)に言ってもしょうがないんで、ぜひ報道の皆さん方が警視庁公安部に押しかけて取材する中で、ぜひとも警察に突きつけていただきたい。そうしながら、3年前の各社の報道姿勢、特に社説における考え方をそこでもう一度警視庁に突きつける、そういう活動をやることによって、この判決が、捜査方法の是正という方向に向かえば、お互いの勝利ということになろうかと思います。原告からの発表は以上です。

 

記者からの質問:荒木さんにも、判決を受けてのコメント、感想をいただけますか。

荒木広報部長:代理人お二人からの話にあったとおり、教団側の主張がほぼ全面的に認められた判決であることは、そのとおりだと思います。それは翻せば東京都、警視庁に対して厳しい内容であるわけですし、言い方を変えれば、正当な判決といっていいと思います。ただごく当たり前のことを言っているな、というふうにも思います。

 

 

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