更新請求の第一の根拠は、「①麻原尊師が現在も団体の活動に絶対的な影響力を有している」でした。
公安調査庁によれば、ここでいう「影響力を有している」とは、「特定の者の言動が、団体の活動の基本的方向性を左右する力あるいは内容に変化を生じさせる力を有している」こととされます。つまり、麻原尊師が2017年12月の更新請求時点の「団体」の活動内容を変更させられる状況にある、というのが①の意味するところです。
しかし、麻原尊師については、1995年に身柄を拘束されて以来、20数年にわたって外部との連絡が厳しく制限されてきました。特に2008年以降は、例外的に面会等が認められている家族や弁護士とすら、面会を含めて一切音信不通であり、外部から完全に遮断された状況が続いています。このことは、当の公安調査庁自身が公安審に提出した証拠からも裏付けられています。
そのような状況にある麻原尊師が、「団体」側――Alephであれひかりの輪であれ、あるいは「山田らの集団」であれ――とコミュニケーションを取り、現在の「団体」の活動を自ら把握して何らかの指示を出したり方針を示したりすることなどおよそ不可能であり、現実からかけ離れた想定といわざるを得ません。
したがって、今回の更新請求が行なわれた時点で、麻原尊師の言動が「団体の活動の基本的方向性を左右」したり、「内容に変化を生じさせ」たりする状況になかったことは、明らかです。つまり、麻原尊師は、団体規制法でいう「団体の活動への影響力」を有してはいないのです。
もっとも、この「特定の者の言動」については、現時点の言動だけでなく過去における言動も含まれるとする解釈もあり、実際、公調・公安審もそのように主張しています。これは、団体規制法が禁止する拡張解釈(第2条)の疑いがありますが、仮にそのような理解に立ったとしても、やはり麻原尊師について、①の要件を単純に当てはめることはできません。
なぜならば、公安調査庁が依拠している団体規制法の解説書によれば、無差別大量殺人行為の首謀者が「自己の影響力を利用して団体に対して、平和的な活動を行うべき旨指導している」ような場合、このような「影響力」については適用要件から除外するものと記されているからです。
麻原尊師は、Alephの前身である旧オウム真理教当時、破壊活動防止法に基づく解散請求が行なわれた際の弁明手続きにおいて、信者らに対するメッセージとして、
「将来において、オウム真理教が法の規制を破り、そして破壊活動を行なうことは決してないし、またわたしも、そのような指示をするつもりはない。また、もう一つ言えることは、もしそのようなことがわかったら、即座に止めたいと考えています。」
(1996.5.16 東京拘置所)
と述べています。つまり、麻原尊師はここではっきりと、「自己の影響力を利用して団体に対して、平和的な活動を行うべき旨指導して」いるのです。
そしてAlephは、麻原尊師が22年前に示された「平和的な活動を行うべき旨指導」を受け止め、これを指針の一つとして、不殺生の教えの遵守をはじめとして、破壊活動・無差別大量殺人行為とは正反対の宗教的実践を行なっています。【続く】