最後の要件である「⑤一般社会と隔絶した独自の閉鎖社会を構築している等」は、「その他無差別大量殺人行為に及ぶ危険性」のカテゴリーに該当するとされる要件です。この要件は、これまで述べてきた①~④の各類型に縛られることなく、これら以外に「同様の危険性がある」と見なした事実を何でも列挙できるという、文字通り“何でもあり”の要件です。ここで「危険性がある」と判断するのは、いうまでもなく、公安調査庁であり公安審査委員会です。
2017年に成立した共謀罪は、捜査機関がある行為を「犯罪の準備行為」と判断する基準が曖昧だと指摘されていますが、団体規制法はまさにそのケーススタディの宝庫です。一例を挙げましょう。
今回の公安調査庁による更新請求では、この「一般社会と隔絶した独自の閉鎖社会の構築」を裏付ける事実として、某集団(Alephではない)について「施設内で行う修行による騒音で近隣住民に迷惑をかけても真実の理由を説明しない」ことが具体例として挙げられています。そしてそのことが、近隣関係者による供述調書とこれを記録した公安調査官の報告書によって、「無差別大量殺人行為に及ぶ危険性」の証左とされています。
もちろん、室内の物音で近隣に迷惑をかけてその理由をきちんと説明できないというのは、決してほめられた話ではありません。しかし、そのような不品行と「無差別大量殺人行為に及ぶ危険性」は本来まったく次元の違う話です。これを直結させて「無差別大量殺人の危険がある」という論理がまかり通るのであれば、簡単に一般市民を「犯罪の準備行為を行なった者」に仕立て上げることができてしまいます(ちなみに、近隣関係者の調書によれば、某集団関係者は苦情を聞いてすぐさま菓子折を持ってお詫び回りをしてしたとのことです)。
別の例を挙げましょう。公安調査庁は、「(団体が)各種犯罪行為に関与した構成員を擁している」ことが、やはり「無差別大量殺人行為に及ぶ危険性」に当たると主張し、この「各種犯罪行為に関与した」とされる構成員数十名分のリストを、その罪名等とともに証拠として提出しています。しかし、そのリストの中には、犯罪の嫌疑が認められず逮捕も起訴もされなかった事例のほか、裁判で無罪判決が出たえん罪事件までもが含まれているのです。しかし、「各種犯罪行為」かどうかを判断するのは裁判所であり、警察や公調などの公安当局が独自に認定して良いものではありません。
このように、「その他無差別大量殺人行為に及ぶ危険性」という要件は、公安調査庁や公安審査委員会が調査結果をいかようにも「危険性」にこじつけることが可能です。そして実際に、団体規制法が規定する「必要最小限度」(3条)の自己規制を大きく逸脱し、同様に同法が厳しく自戒する「拡張解釈」(2条)と「濫用」(同前)の温床となっているのです。【続く】
<参考>団体規制法より
第2条 この法律は、国民の基本的人権に重大な関係を有するものであるから、公共の安全の確保のために必要な最小限度においてのみ適用すべきであって、いやしくもこれを拡張して解釈するようなことがあってはならない。
第3条 この法律による規制及び規制のための調査は、第1条に規定する目的を達成するために必要な最小限度においてのみ行うべきであって、いやしくも権限を逸脱して、思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を、不当に制限するようなことがあってはならない。
2 この法律による規制及び規制のための調査については、いやしくもこれを濫用し、労働組合その他の団体の正当な活動を制限し、又はこれに介入するようなことがあってはならない。