平成22年9月16日
公安調査庁長官
北田幹直 殿
団 体 名 Aleph
主たる事務所の所在地 埼玉県越谷市■■●-●-●
抗 議 並 び に 求 釈 明 書
本年9月4日夜7時台より、石川県金沢市所在の当団体「金沢道場」に対して、貴庁による立入検査(以下、「本件検査」と記す)が行なわれたが、以下に、貴庁に対する抗議・要請、もしくは、求釈明を行なうものである。
1.本件検査の根拠とされる情報は事実でないこと
本年9月6日付の産経新聞によると、
「公安庁によると、同施設は教団主流派「アレフ」の北陸の拠点。「夜間に人の出入りが活発になっている」との情報があり、公安調査官14人が4日午後7時〜午後9時40分の間、内部の使用状況を確認するため施設に入った。」
とされ、
同日付のNHK金沢放送局の報道によると、
「公安調査庁によりますと、周辺地区の住民でつくる「オウム対策協議会」から、「夜遅くに信者とみられる人の出入りが激しい」という連絡があったということで、公安調査庁の調査官18人が4日午後7時すぎから2時間にわたり施設の活動状況を調べました。」
とされ、本件検査は、地域住民からの情報・連絡を理由に行なわれたとされている。
しかし、「夜間に人の出入りが活発になっている」という情報は事実ではなく、実際に、本件検査において、当該物件には居住者2名を含む3名しかいなかったこと、及び、検査中に来訪者がいなかったことは貴庁も現認したところである。これら検査時の状況からも、貴庁が入手した情報自体が全く根拠のないものであったことは明らかである。
また、夜間に人の出入りが活発になっていないという事実は、当団体を長期にわたり調査している貴庁が知らないはずはなく、たとえこれまで、当該物件の使用状況が全く調査されていなかったとしても、あえて夜間に立入検査を行なうまでもなく、ごく基本的な任意の調査を行ないさえすれば、当該情報の真偽について容易に確認できたはずである。すなわち、貴庁は当該情報を誤情報と知ったうえで、立入検査を強行したことが疑われるのであり、これが事実だとすれば、立入検査権の濫用・悪用と言わざるを得ない。
2.本件検査の違法性
仮に、夜間に人の出入りが活発であるとしても、そのことを理由にして立入検査を行うことは違法であると言える。とりわけ、夜間に行うことは違法である。
団体規制法立法過程における国会審議おいて、立入検査の具体的な目的や対象について、主務大臣である法務大臣は以下のように答弁している(第146国会衆議院法務委員会議事録より・1999年11月9日)。
○漆原委員 ちょっと私がお尋ねしていることと答えが違っておるんですが、七条をちょっと見ていただきたいと思うのです。観察処分の実施、七条第一項は、五条一項または同四項の処分を受けている団体の活動状況を明らかにするために必要な調査をさせることができると。これは一般的な調査権なんでしょうね。第二項でさらに、「団体の活動状況を明らかにするために特に必要があると認められるとき」というふうに、ここに新たに「特に」というのが入って、その場合には立入検査ができるんだ、こうなっているわけですね。
そこで、この第七条一項の一般的な調査のほかに、さらに特に必要がある場合に立入検査ができるという条文になっているものですから、この特に必要がある場合というのは一体どういうことなんだ、どういうことを想定しているのかということをお聞きしているわけです。
○臼井国務大臣 具体例で申し上げるならば、例えば、ある施設が金属加工の用に供されている旨の報告がなされた。そうした場合に、公安調査官が任意調査や団体からの報告のみによって当該施設や同施設に設置された設備の性能や用途について正確な把握ができない。そうした場合には公安調査官が同施設に立ち入って当該施設の実情を調査する必要があるんじゃないか、そういうふうに考えられるわけでございまして、そうした際という意味であります。
○漆原委員 一般的調査ではわからないけれども、何か危険なもの、あるいは銃器を製造、加工した可能性があるとか、あるいは毒物を何かやっている可能性があるとか、そういう具体的な情報に基づいてその情報を確認するために、そういう前提なんでしょうね。そういう場合に「特に必要がある」というふうになるんでしょうね。そう理解していいでしょうか。
○臼井国務大臣 そのとおりでございます。
このやりとりからすると、銃器や毒物の製造等、何か危険なことをやっている可能性があるというような具体的な情報を確認するために行なうというのが、立入検査を実施するための要件として、当初、想定されていたことが明らかである。
したがって、仮に、夜間の人の出入りが活発であったとしても、それだけでは、立入検査を実施するための事由、すなわち、「団体の活動状況を明らかにするために特に必要があると認められるとき」(団体規制法7条2項)とは、到底言い得ない。もし、報道にあるように、夜間に人の出入りが活発であることのみを理由として本件検査が行なわれたのであれば、本件検査は、立法当初に確認された原則から完全に逸脱したものである。
また、夜間(夕方以降)に人の出入りがあることは、宗教団体において特段に珍しいことではない。当団体は宗教団体であるところ、道場に通う在家会員は教団外の一般人と同様、特殊な事情がない限りは、昼間の時間帯にはほとんどの者が生業に就いており、夕方以降の時間帯に、道場に通い、宗教活動、すなわち、修行や奉仕活動を行なっている。これらは、一般の会社員等が就業時間後にトレーニングジムに通ったり、習い事をしたりするのと同じである。よって、昼間の時間帯に人の出入りが少なく、夕方から夜間の時間帯に人の出入りが多くなるというのは必然である。これは、当団体を十数年以上調査している貴庁におかれては既知の事実であり、何ら目新しいことではない。
夜間の出入りが立入検査を行なう理由になるのであれば、正当な宗教活動が妨害されることになり、信教の自由の重大な侵害というべきである。
とりわけ、本件検査は、午後7時過ぎという日没後に着手されているが、これは極めて人権侵害性・違法性が高いと言わざるを得ない。
検察官や司法警察職員等による家宅捜索について規定している刑事訴訟法においては、日没後の捜索について以下のように規定されている(第222条4項)。
「日出前、日没後には、令状に夜間でも検証をすることができる旨の記載がなければ、検察官、検察事務官又は司法警察職員は・・(中略)・・人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入ることができない。」
これは日没後に捜索に着手する場合には、夜間の住居の平穏を著しく妨げることになるため、通常の令状以外に特別な許可が必要とされているのである。
一方、立入検査が裁判所の許可を必要とせず、公安審査委員会への事前通報という、ごく簡易な手続きだけで認められているのは、立入検査が家宅捜索と比べても、対象者に大きな負担を強いるものではないからとされている。例えば、立入検査においては、家宅捜索では認められている物品の差押えや身体捜索が許されないなど、家宅捜索に比べて大きな制約を受けているが、それは上記の法意からすれば当然のことである。したがって、立入検査は、家宅捜索よりも、関係人の基本的人権に配慮して、より謙抑的に運用されなければならないのは自明の理である。
すなわち、家宅捜索でさえ、特別な許可がないと認められない日没後の着手は、立入検査においては、当然に許されないというべきである。上記の法意からすると、団体規制法において、夜間の立入検査について規定されていないのは、そのことが全く予定されていないからであり、規定されていないから許されているという解釈は全く成立する余地がない。
また、公安審査委員会も、平成21年1月23日に発表された談話において、「立入検査など観察処分の実施に際しては,今後とも関係人の基本的人権についての慎重な配慮が必要と考えております。」と述べているところ、「関係人の基本的人権について慎重な配慮」が行なわれた形跡は全くうかがえない。
したがって、日没後に着手された本件検査は、「関係人の基本的人権」を無視した職権濫用であり、厳重な抗議に値する。
3.立入検査終了直後の住民向け説明会は法的根拠がなく、団体規制法本来の目的からも逸脱していること
貴庁は、本件検査終了直後に、金沢道場の前で近隣住民に対して会見を行ない、本件検査についての説明を行なっていたが、その法的根拠は何か。
団体規制法32条は、「公安調査庁長官は、関係都道府県又は関係市町村(特別区を含む。)の長から請求があったときは、当該請求を行った者に対して、個人の秘密又は公共の安全を害するおそれがあると認める事項を除き、第五条の処分に基づく調査の結果を提供することができる。」と規定しているところ、当該規定以外に、立入検査の結果を提供できる法的根拠は存在しない。
そのうえ、法32条は、あくまでも地方公共団体の長からの請求により、調査結果を請求した長に対して提供できるとしているのみであり、住民に対する情報提供は、貴庁から情報提供された地方公共団体が行なうことはあり得ても、貴庁が直接、住民に情報提供することは、団体規制法にはまったく想定されていない。
立入検査で得られる調査結果は、プライバシー性の高い情報も含まれているところ、法32条は安易な情報提供を戒めるために、地方公共団体の長を通じた情報提供を規定しているものとも解されるのである。したがって、当該会見において、立入検査で得られた調査結果が直接的に近隣住民に提供されたのであれば、当該会見は法的根拠のないものと言うほかない。
よって、貴庁においては、本件検査後に近隣住民に対して行なわれた会見の法的根拠を明らかにするとともに、当該会見で近隣住民に提供された情報について当団体に対して開示するよう要請する。
また、団体規制法の本来の目的は、「国民の生活の平穏を含む公共の安全の確保に寄与すること」(団体規制法1条)であるところ、当該会見以降、近隣住民に安心感が与えられたという事実は全く見出すことはできない。現に本件検査以降も金沢道場周辺では近隣住民による監視活動がなくなったという事実はなく、逆に住民運動に火を付けた結果となり、夜間における監視活動が活発になったという事実がある。
すなわち、貴庁の行なった検査直後の会見は、その法的根拠が明らかでないだけでなく、法の本来の目的も全く果たしていない。立入検査で何ら危険性がないことが明らかになっているにも関わらず、その旨が近隣住民にきちんと伝わることがなく、逆に不安感を煽るような結果になっている。
加えて、報道によれば、当該物件への「夜間の人の出入りが活発になっている」との情報を貴庁が得たことが本件検査をあえて夜間に行なった理由とされているのであるから、そのような事実が本件検査において確認されなかったという調査結果こそ、法の本来の目的を鑑みた場合、貴庁ホームページ等で発表されるべきと思料されるところ、そのような発表は行なわれていない。それどころか、貴庁ホームページでは、本件検査の「実施結果」として、「北陸地方に居住する在家信徒が夜間帯に集ま」っていることが確認されたなどと、あたかも、事前の情報が裏付けられたかのごとき発表が行なわれているのである。
貴庁は、本件検査において、当該物件への「夜間の人の出入りが活発になっている」との事実が確認されなかったという検査結果を公表せず、逆に、あたかもその事実が本件検査によって裏付けられたかのような発表を行なった理由を明らかにすべきである。
4.求釈明
以上を踏まえて、最後に本件検査に関する求釈明事項をまとめるので、速やかに回答されたい。
1.本件検査は、報道にあるとおり、地域住民からの情報のみで実施されたものなのか、あるいは、それ以外の特別な理由があったのか。
2.近隣住民からの情報の真偽について、立入検査以外の方法で調査していたのか。していたのであれば、どうしてこの情報が真実であると判断したのか。
3.夜間に検査を行なうにあたって、公安審査委員会の言う「基本的人権についての慎重な配慮」はどのような形で反映されたのか。あるいは全く反映されなかったのか。
4.本件検査直後の会見において、近隣住民に対してどのような情報が提供され、また、それはいかなる法的根拠に基づくものか。また、そこでは「国民の生活の平穏」に寄与し、住民に安心感を与えるような説明が事実に即して行なわれたのか。
5.貴庁のホームページにおいて、本件検査の「実施結果」として、「北陸地方に居住する在家信徒が夜間帯に集ま」っていることが確認されたと発表されているが、この発表は何を根拠とし、また、いかなる事実を指しているのか。
6.報道によれば、当該物件への「夜間の人の出入りが活発になっている」との情報を貴庁が得たことが本件検査をあえて夜間に行なった理由とされているが、本件検査においてそのような事実は何ら確認されなかったことを、貴庁ホームページ等で公表せず、逆に、あたかもその事実が本件検査によって裏付けられたかのような発表を貴庁ホームページで行なったのはなぜか。