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訴状 (2/4)

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5 公表による不利益が大きく不測の事態があり得ること

 

本条例6条は、反社会的団体からの報告を受けたときは、報告内容を公表するとし、その公表は、区のホームページに掲載する方法で行うとしている(本条例施行規則3条)。そして、公表する内容は、構成員や役職員については、「足立区内において活動し、又は居住する構成員の数、役職員の数及び役職名を公表する」として、構成員の氏名は公表しないなどの限定はしているが、それ以外は、団体の活動の用に供されている土地、建物の所在を含めてすべてを公表することになっている。
  本条例は観察処分を受けた団体に対して、重ねて同様の規制を加えるものであるが、観察処分に基づく報告を受けた公安調査庁長官においては、被処分団体から得た団体の施設に関する情報については、「これを公にすることにより、当該団体を他からの観察・監視にさらすだけでなく、誹謗・中傷や暴力的干渉を引き起こすなど、当該団体の権利その他正当な利益を害するおそれがあるとともに、場合によっては犯罪行為を誘発するなどして公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」として、その開示を認めないとしている(甲5)。
  実際にも、原告にあっては、2010年11月、元夫からの執拗な家庭内暴力を逃れて原告団体での出家生活を送っていた女性が、居住していた原告施設の所在を元夫につきとめられ、施設の前で待ち伏せされ、追跡されたうえで、刺殺される事件が起きている(甲6)。
  このように、足立区のホームページに報告内容のほとんど全てを公表するということになれば、瞬時にして世界中の誰もが報告内容に接することができることになる。このような形式での報告内容の公表は、原告及びその構成員の信教の自由、結社の自由、プライバシーをただちに侵害することはもとより、その生命・身体、財産に対する侵害をも生じさせかねないのである。
  報告がそのような結果を生むおそれがある以上、原告としては、とうてい、報告することができないのである。

6 足立区行政手続条例違反

 

足立区行政手続条例(甲7)は、不利益処分をする場合に、意見陳述の機会のための手続き(聴聞又は弁明)を執らなければならないとし(13条)、また、名あて人に対し、不利益処分と同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならないとしている(14条)。
  後述するとおり、本条例5条は、「反社会的団体」に対して報告を義務づけるという不利益処分を課すものであるが、当該不利益処分を課すにあたっては、原告に対し、本条例の制定に先立ち意見陳述の機会は付与されなかったし、本条例制定と同時に処分理由も示されなかった。
  このような取扱は、本条例そのものが憲法上要請される適正手続規定に違反するものであることを示すものであるが、足立区において、いやしくも、行政手続条例を規定しているのであれば、本条例5条そのものが不利益処分に該当することは明らかであるから、条例制定にあたり、同13条及び同14条に規定した手続を踏むべきであった。
  このような手続が踏まれていない以上、原告としては、報告する義務は生じないのであり、「正当な理由」が存する。

7 本条例は憲法に違反し条例としての効力がないこと

 

次項で詳細に論ずるように、前項で示した点を含めて、本条例は憲法に違反した条例であり、そもそも、条例としての法的効力を有しない。
  したがって、原告が報告しないのには、正当な理由が存する。

第4 本条例は憲法違反の条例であること

1 本条例の内容

(1) 本条例において団体及び構成員に課せられる義務
  本条例においては、「反社会的団体」及びその構成員に、以下のような義務が課されている。
  第1に、足立区長に対する報告義務であり、その内容は以下のとおりである。
@ 区域内において活動し、又は居住する当該団体の役職員の氏名・住所・役職名
A 区域内において活動し、又は居住する当該団体の構成員の氏名・住所
B 区域内における活動に係る団体(その支部、分会その他の下部組織を含む)の意思決定の内容
C 区内における団体の活動の用に供されている土地及び建物の所在、地積又は規模及び用途
D 区内において土地又は建物を取得し、構成員が拠点として活動し、又は居住する場所を整備しようとする場合における当該整備計画の概要
  そのうえ、この報告した内容が、@とAについては、「区において活動し、又は居住する構成員の数、役職員の数及び役職名」に限定はされているが、そのほかの事項はすべて、区のホームページに掲載される。
  第2に、周辺住民に対する説明会の開催義務である。本条例は周辺住民の求めがあったときには、その活動内容を説明するため、説明会を開催しなければならないとしている。しかも、本条例における「周辺住民」の定義は、「反社会的団体が活動の拠点又は反社会的団体の構成員若しくは関係者が住所地として定めることにより、日常生活における安全及び平穏に脅威又は不安を感じる当該地の周辺に生活する者をいう」とされており、極めて曖昧であるばかりか、限定がない。
  第3に、「反社会的団体」の活動内容が周辺住民の日常生活の安全及び平穏に対して脅威又は不安を与えるおそれを生じさせたとき、あるいは、構成員が騒音、異臭等を発生させる等、周辺住民の日常生活の安全及び平穏に対して脅威又は不安を与える行為をしたときの、足立区長による建物への立入りを含む事実確認の調査に対する協力義務である。
  第4に、区に住所を有する構成員の住民基本台帳法の規定に基づく調査に対する協力義務である。
  第5に、足立区長の命ずる周辺住民とのあっせんに応ずる義務である。
  第6に、足立区長の命ずる区民の安全及び周辺住民の日常生活の平穏に与える脅威や不安を除去する措置に従うべき義務である。
  第7に、足立区長の命ずる住所地からの立ち退きに応ずる義務である。
(2) 本条例は重大な人権の侵害を含んでいること
  以上のように、本条例は、「反社会的団体」及びその構成員に対して、憲法で保障された信教の自由(憲法20条)、結社の自由(憲法21条)、プライバシー権(憲法13条)、居住・移転の自由(憲法22条)を著しく制約するものである。
  民主的な社会の本質的要素は、「多元主義、寛容、開かれた精神」である。思想に関する多元主義を実現するうえで、思想・良心・信教の自由は、民主主義社会の重要な基盤である。また、集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、民主主義社会を実現するための極めて重要な権利として位置づけられ、基本的人権の中でも優越的地位を持つとされている。プライバシー権も居住・移転の自由も同様である。このように、本条例は人権の中でも重要な基本的人権に制約を加えるものである。
  だからこそ、本条例2条に必要最小限の適用という破壊活動防止法や団体規制法と同様の解釈規定をおいているのである。このように、本条例は、本条例自身が重大な人権の侵害が存することを自認する条例であることは疑う余地がない。

2 立法事実がなく人権制約の原理に背いていること

 

本条例1条の規定する目的は、「反社会的団体」の足立区での活動や構成員の転入等により、区民の安全及び周辺住民の日常生活の平穏に対する脅威及び不安を除去するためとされている。
  ところで、本条例が定義づける「反社会的団体」とは、団体規制法における観察処分を受けた団体である。団体規制法による観察処分は、2000年2月1日に官報に公示されているが(甲8)、それ以降、観察処分を受けた団体が、足立区民の安全や周辺住民の日常生活の平穏に対して脅威及や不安を生じさせた行為は何一つ存在しない。このようなことは一切なかったがゆえに、足立区民が観察処分を受けた団体の活動によって安全を脅かされたことも、日常生活の平穏に対する不安を生じさせたことも、具体的には何一つなかったのである。
  にもかかわらず、本条例は、団体規制法による観察処分が行われてから10年も経過した2010年10月、地下鉄サリン事件や松本サリン事件の発生からは15年以上にもなるのに、そのような重大な事件を過去に引き起こした宗教団体であるとする、ただそれだけの理由で、実際に存在するか否かも検証されていない住民の漠然たる不安感を理由として、足立区長ら自身にも存在するオウム真理教に対する不快感と根強い差別的偏見に支えられて制定されたものである。
  しかし、憲法で保障された人権を制約しなければならない事情や必要性が一切ないのに、団体に対する差別的偏見や不快感により、その団体や構成員の人権を制限するのは、憲法上の人権制約の原理から大きく逸脱するものである。
  仮に、本条例の定める区民の安全や周辺住民の日常生活の平穏に対する脅威や不安が実際に存在し、その除去のために本条例が制定されたのだとしても、その脅威や不安は、きわめて漠然としたものである。そのような漠然たる脅威や不安は、憲法上の人権を制約する利益にはなり得るはずがない。
  そのような漠然たる不安により人権が制約されるとしたら、それはもはや人権とは言い難いものとなるのである。
  以下、さらに、項を分けて論ずることにする。

 

 

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