公安調査庁の元職員である野田敬生氏は、過去の自らの体験に基づいて、公安調査庁による構成員認定の杜撰さについて証言しています。
もともと、10年前の団体規制法の立法当時、オウム真理教を退会した人や退会しようとする人たちが、この法律によって社会復帰を阻まれるのではないかということが強く憂慮されていました。その声を受けて、衆参両議院は、団体規制法の採択と合わせて行なった附帯決議の中に、その問題への十分な配慮をそれぞれ盛り込むことになりました。
【資料I】団体規制法採択時の国会附帯決議
「・政府は、この法律により規制処分を実施した団体から離脱し又は離脱しようとする当該団体の役職員及び構成員並びに既に離脱した者の社会的な救済につきカウンセラーの充実などこれらの者の社会復帰に資する体制の整備などの施策を講じるよう努めること。」
(衆議院 99年11月17日)
「・本法により規制処分を受けた団体から離脱し又は離脱する意志を有する者に対して、離脱の援助・促進、離脱を妨害する行為の予防、離脱した者に対するカウンセリング等 社会的援護の充実などの適切な施策を講じ、これらの者が円滑に社会復帰できるよう努めること。」
(参議院 99年12月2日)
しかし、対象団体の拡張によって一方的に「構成員」認定されてしまった約700人の存在は、附帯決議が求めている退会者の<社会復帰支援>とは全く正反対の方向に現実が進んでいることを物語っています。
また一方で、公安調査庁は、団体規制法上の「報告義務」規定に基づいて(法5条)、不特定の「構成員」約700人の氏名・住所を公安調査庁長官に報告することがAlephには義務づけられているとしています。そして、適正に報告がなされない場合は、虚偽報告による「再発防止処分」もあり得るとして(法8条)、ほとんど恫喝的な行政指導をも行なっているのです。
* * * * *
以上のとおり、一連の報道に見られるように、対象団体を漠然と「オウム真理教」としたり、あるいは「オウム真理教(Alephに改称)と、別組織であるひかりの輪」とか「オウム真理教(現Alephとひかりの輪の2団体)」などと誤って限定して言ってしまうと、対象の「不特定性」「拡張性」という本質的な問題が全く見えなくなってしまうのです。
そして、この拡張を恣意的に重ねていった場合、最終的に、それは対象の「架空性」を顕在化させていくことになります。
【資料H】元公安調査庁職員が証言する「構成員認定」の実態
「構成員の認定って簡単じゃないんですよ。例えば、在家信者の認定にしたって、会いに行って本人が『やめている』とか言ったってね、『やめている』というニュアンスが人それぞれなんです。「オウムからは離れるけど、ヨーガの修行活動は続ける」とかね。それをどう認定するかという話になって、現場もすごく混乱しているんですよ。『構成員認定基準』というのもあるんですけれども、そういうのが機械的に適用できないややこしいことになっているんです。だから、公安調査庁が在家信者何名なんて言ったってはっきりわからないんですよ。オウムだけじゃなくて、日共・過激派も含めて毎年、年報を出していますが、けっこういい加減なんです。『こいつらわからへんけれど、活動やってんのかな、やめてんのかな』と悩むわけですよ。『でも、これ落とすと前より人数減ってしまうから残しておこう』なんて感じでやっていますから。『あんまりいきなり人数減るのおかしい』とか」
(野田敬生「変容する公安調査庁〜団体規制法が目指すのは治安機構の再編」)